アルコールの正体は依存性の強い薬物

アルコールを学ぶ

アルコールは、社会のあらゆる場面で受け入れられている飲み物です。多くの文化、伝統、そして社交の場で必需品とされてきました。しかしアルコールの背後には、強い依存性を持つ薬物としての側面が隠れています。

アルコールが「薬物」としての認識を受けないのは、何でなんですかね。「嗜好品」という言葉でパッケージされて、楽しいイメージが紐づけられているように思います。

一般的に、薬物と言われると、非合法なものや、過度に使用すると危険なものを指すイメージがあります。しかし、アルコールもまた、過度に摂取することで身体的、精神的なリスクを引き起こす可能性があるため、その他の薬物と同じように扱われるべきではないかと考えます。

世界の中でも日本はかなりアルコールに寛容な文化で、道端に酔っ払いが寝ているのが日常と化しています。日本へ初めて旅行しに来た外国人観光客の方は、路上で寝る泥酔者、そしてそれが日常に当たり前に溶け込んでいて、通行人もまたかと平気でスルーしていく様子に、カルチャーショックを受けるそうです。

なぜアルコールが危険であるのか、また、なぜ多くの人々がその危険性を見過ごしてしまうのか。本記事では、アルコールの真の性質と、その影響について詳しく解説していきます。

薬物有害度はアルコールが第1位

アルコール起因の国内年間死亡者数は3万人以上、社会的損失額は4兆円以上と推計されています。

有害度は、使用者自身に対する害・他者への害・社会への害の3方向から判定されます。アルコールは他者への害が、ヘロイン・タバコ・大麻等の他の薬物に比べても、最も高いとされました。

使用者自身への害外傷、睡眠障害、認知症、内臓疾患などの各種健康被害、アルコール依存症、うつ病、失職、貧困、孤立、自殺など
他者への害ストレス、各種ハラスメント(アルハラ・パワハラ・セクハラ・SOGIハラなど)、器物損壊、事故、暴力、虐待、DV、性暴力、トラウマ、家庭崩壊、胎児・乳児への影響など
社会への害患者や死者※、医療費、生産性の低下などの社会的損失※、犯罪、法的問題、社会保障額の増加など
薬物の”有害さ”で1位のアルコール|害のある飲み方とは?知られざる飲酒リスク

覚醒剤など違法薬物の場合は、使用者が隠れるように使用するので、内にこもる傾向があります。そのため使用者自身への害は高いものの、他者への害は身内や周囲の親族などに限られます。

アルコールの場合は、外へ飲みに出ていく人も多く、飲酒運転で見知らぬ他人に迷惑をかけたり、社会に迷惑をもたらす度合いが、他の薬物より高く、有害度は1位です。

アルコールの化学的な正体

多くの人々が飲むアルコール飲料の主要成分は「エタノール」という化学物質です。この成分が私たちの体と脳にどのような影響を及ぼすのか、見ていきましょう。

エタノールの性質

エタノールは、化学的にはC2H5OHという構造を持つ有機化合物です。飲むと、すぐに胃から吸収され、血流を通じて全身に広がります。特に、脳に直接影響を与え、感覚や認識、行動に変化を引き起こします。

脳への影響

アルコールが脳に及ぼす影響は、摂取量や個人の体質によって異なります。少量の摂取ではリラックスした気分になったり、社交的になったりすることがよくあります。しかし、大量に摂取すると、判断力や運動能力の低下、認識の鈍化などの症状が現れます。

エタノールは、脳内の神経伝達物質のバランスを変化させることでこれらの効果をもたらします。具体的には、GABA(ガンマ・アミノ酪酸)という神経伝達物質の作用を強化し、神経活動を鈍化させます。一方、グルタミン酸という神経伝達物質の作用を抑制し、興奮を抑えます。

このような神経伝達物質の影響は、一時的なものであると考えられがちですが、長期的な過剰摂取は脳の構造や機能に永続的な変化をもたらす可能性があります。これがアルコールの依存や慢性的な健康問題の原因となるのです。

アルコールと依存症

アルコールの摂取が日常の一部となっている多くの文化圏で、その実際の依存性の危険はしばしば過小評価されています。しかし、アルコールは高い依存性を持つ薬物であることには変わりありません。

アルコールの依存症の原因

アルコールの摂取が続くと、脳はその存在を「新しい正常」として認識し始めます。これは神経伝達物質のバランスが、アルコールの存在下での新しい平衡状態を求めるためです。

この結果、アルコールなしでは不快な症状(禁断症状)が現れるようになります。このような状態がアルコール依存症の始まりです。

他の薬物との比較

アルコールの依存性は、一部の強力な薬物と同等またはそれ以上のものとなることがあります。実際に、アルコールの禁断症状は生命に危険を及ぼすことがあるため、他の多くの薬物よりも危険とされています。

ヘロインとの比較

ヘロインはオピオイド系の麻薬として知られ、非常に強い依存性を持っています。しかし、アルコールの禁断症状は、特に適切な治療がなされない場合、ヘロインの禁断症状よりも重篤であることが指摘されています。

コカインとの比較

コカインは強力な中枢神経刺激薬で、精神依存のリスクが高いとされています。アルコールの身体的な依存性や禁断症状の強さから見ると、アルコールの危険性は低く評価されることが多いです。

ニコチンとの比較

ニコチンも非常に高い依存性を持つ薬物の一つです。ニコチンの禁断症状はアルコールほど重篤ではありません。

カンナビスとの比較

カンナビスの依存性は他の上記の薬物と比べると低いとされていますが、精神依存のリスクは存在します。アルコールの身体的な依存性は、カンナビスよりも高いと考えられます。

このように、アルコールは他の多くの薬物と比べても、依存性や危険性が非常に高いと評価されることが多いのです。特に禁断症状の重篤さや、その広範囲な影響を考慮すると、アルコールの取り扱いには十分な注意が必要です。

依存症の兆候

アルコールの依存性の兆候としては以下のようなものがあります。

  • アルコールを摂取しないと不安や不快に感じる。
  • 以前よりも大量のアルコールを必要とするようになる(耐性の上昇)。
  • 飲酒を控える努力ができない、または飲酒の制限が難しい。
  • 飲酒のために日常活動や趣味を犠牲にする。

アルコール依存症は多くの人々の生活に悪影響を及ぼすだけでなく、家族や友人、社会全体にも影響を与えます。早期の認識が問題拡大を防ぐ鍵となります。

なぜアルコールの危険性が見過ごされるのか

これだけ危険なのにも関わらず、アルコールの危険性がしばしば見過ごされてきた背景には、文化的、社会的要因やアルコール産業の影響が大きく関与しています。

文化的、社会的背景とアルコールの役割

世界中の多くの文化や社会で、アルコールは祝賀の儀式、コミュニケーションの一環、そしてストレス解消の手段として位置づけられてきました。このような背景から、アルコールの危険性を指摘することが避けられることもあります。

例えば、若者の成人式や友人・家族との集まりといった特定のイベントでのアルコール摂取は、危険性を超えた文化的な意味を持つため、その問題提起がタブーとされる場面も少なくありません。

アルコール産業とその影響

また、アルコール産業の影響は非常に大きいと言えます。アルコールは世界中で巨大な市場を持ち、多額の利益を生む産業となっています。

このような背景から、アルコール産業は宣伝活動やマーケティング戦略を駆使して、アルコールの危険性よりもその楽しみ方や社会的な側面を強調する傾向があります。

この結果、消費者はアルコールの健康への影響についての情報が疎かになることが多くなります。さらに、アルコール産業が政策決定の場での影響力を持つことから、規制の強化や啓発活動が十分に進まない状況も見受けられます。

お金を儲け、力を持ってしまった企業を止めることはなかなか難しいのです。

アルコールは嗜好品ではなく薬物だと認識すること

アルコールは、その文化的・社会的背景や産業の影響力から、多くの人々に受け入れられている飲み物です。しかしその一方で、アルコールの依存性や健康への悪影響も大きな問題として存在しています。

本記事を通じて、アルコールが持つ依存性や薬物としての危険性、そしてその摂取による身体的・精神的影響についての知識を深めていただけたかと思います。さらに、アルコールの危険性が文化や産業の影響によってなぜ見過ごされやすいのか、という背後の理由についての理解も深まったことでしょう。

アルコールに対する意識や行動を見直すことは、私たち一人ひとりの健康や社会全体の健康を守るために不可欠です。正確な知識を持ち、自らの飲酒習慣を再評価することで、より健康的な選択をする手助けとなります。